第60章 傷心
「ヒソカは、イルミの友達だよね」
「彼がどう思っているかはわからないケド」
「……友達とは思ってないだろうね……」
「キミがそう思うのならそうなんだろう」
ヒソカの声は軽快だ。しかし聴きたいことはこれではない。小さな咳払いを挟ませて、リネルはヒソカの方を向いた。
「ヒソカがイルミと喧嘩したとして、どうやって仲直りする?」
「ボクならむしろその状況は望ましいナ」
「……やっぱ何でもない。ヒソカに聞くべきじゃない質問だった」
「ま、リネルの場合は簡単だろ」
「なんで?」
「オトコとオンナ だから♡」
「…………。」
ヒソカの言わんとすることは、何となくはわかった。過去にも実際に、身体の距離を埋めることで誤魔化してきたのも事実ではある。しかしその方法では“根本解決”には至れないのである。リネルは小さな溜息をついた。
「人生?生き方?どうやったら理解し合えるのか、…ずっと考えてるんだけど わからないんだよね」
「理解し合う?」
「うん」
「ムリだろ」
ヒソカはゆったりと頭を上げる。浮いた喉元からは嘲笑が聞こえるようだった。
「他人と理解し合うだとか、相手を知るだとか、ボクには興味のないコトだ」
「今はヒソカの興味の話をしているワケじゃなくて…」
「リネルには、ボクの考えは理解出来ない?」
「出来ない。少なくとも自分が楽しければそれでいい、みたいなところは特に」
「リネルも、イルミも、ボクから言わせれば同じだ」
「はあ?」
「“自分以外の人間の価値観には、興味がないし理解も出来ない。当然する気も毛頭ナシ”」
「………」
「つまりは、みんな同類さ」
不覚にも一瞬言葉を失った。
確信をついている、そんな気がしたからだ。
人間とはエゴの塊だ。ましてこの緊張感ばかりの世界の中では、自分の価値観こそ固めて進んでいかなければどこで誰に裏切られるかもわからない。リネル自身が必死にそれを守っているように、相手もそうなのだとしたら…
そもそも「理解し合えない」ということが、今、この瞬間に「理解が出来た」のだとしたら。