第60章 傷心
数刻後。
「どうぞ」
「ん…ありがとう」
いつの間に入手してきたのか、ヒソカに横から渡されたミネラルウォーターを受け取った。街を当てなく徘徊し、謎にヒソカに慰められて時間はしばらく過ぎただろうか。いつの間にか日は落ちており二人は夜の街角のベンチにて、思い切り端と端に距離を空けて腰かけていた。
正直喉も乾いていた。リネルは渡された水を半分ほど一気に飲み進めた。
「はぁー……」
ヒソカはそんなリネルを鼻先で笑っていた。
「帰らないの?二度と顔も見たくないボクの前から」
「今のヒソカにはそんな変な気はないことがわかるからまだ帰らない。」
「クク……らしくなってきたね」
視界の横のヒソカにはリネルと同じく、ミネラルウォーターの蓋を開ける様が映った。つまりはまだ この当てもない時間に“付き合ってくれる”ということなのだろう。
リネルは声を小さくして言った。
「……ヒソカ さっきはありがとう」
「じゃあそうだな、お代は」
「この前の意地悪のとでチャラね」
「大概ボクに甘いよね。リネル」
「…………」
確かにそうかもしれない。と言うか、今はとても思考も脳も鈍っているのだろう。リネルはふうと長い息をついた。
前に進めているような、後退してもいるような、神妙な気分だった。ヒソカが脚を組む様が横目に入ってくる。
「ところで」
「ん……?」
「仲直りしたのかい?イルミと」
「……まだ」
「いつするの?」
「……イルミが仕事から帰ったら」
リネルはポケットに入っている携帯電話を取り出しその画面を見つめた。当たり前だが、音を立てる気配は到底ありはしなかった。携帯電話を再びポケットの中にしまい、水を再び口に含んだ。
「晴れない顔だね」
「…どうやったら、うまくいくようになるのかな…って」
リネルは視線を真上に上げた。空にはいつの間にか、綺麗な三日月が出ていた。