第60章 傷心
あれから。
リネルは一人当てもなくぼんやりした心持ちで街中を歩いていた。帰宅する気にもなれず、仕事に打ち込む気にもなれない。吐き出した思いは予想以上にリネルに喪失感をもたらしていた。
後ろから、嫌な気配が近づいた。この捉えどころのないオーラは確実にヒソカのものだ。何故このタイミングなのか、嫌悪感を覚えながらもリネルは低く静かな声で言った。
「……2度と顔出さないでって言わなかった?」
「了承した覚えはないナ」
「ヒソカの顔見たくないんだけど」
ヒソカは普段よりも沈んで見えるリネルの後ろ姿を見つめていた。
「なんだか落ち込んでるね」
「別にそんなことない。」
「オーラが弱々しいし。アレ、もしかしてその様子じゃもうフられちゃったとか?」
ほんの一瞬だけ、動揺した気配を見せるリネルに ヒソカは少し距離を詰めた。
「なるほど。こういうコトに関してはほんとわかりやすいねリネルは」
「……うるさい」
「こんなに早く動くとは思ってなかったケド。そんなに切羽詰まってた?」
「……うるさいってば」
「八つ当たりな気分、てワケね」
「……そんなんじゃない」
ヒソカは溜息まじりに大きく息を吐いた後、声を少し大きくした。
「でもまぁ臆病なキミにしては 頑張ったじゃないか」
「……え……」
「エライね、って褒めてるの」
「…………っ」
まさか、ヒソカからこのような言い回しが出ようとは。慰めにもとれる言葉が胸に染み渡るようで、リネルは喉の奥が熱くなる感覚を覚えていた。