第59章 本音の本音
リネルは結婚を決めた夜の事をふと思い起こす。
『決めた。イルミと結婚する』
それはあまりにも突発的で、そこに運命を感じたわけでもなく、考え抜いた末の結論でもなく。
成り行き、利害の一致、そんな言葉を散々使ってはきたが それはつまり、その根底にあったものは おそらくクロロの言うものと酷似するのかもしれない。
今は自然と そう思うことが出来た。
「運命とかわからない、けど……私は自分の……直感を信じるから」
「そうか。」
クロロはリネルに顔を近付けると、まだ緩むリネルの瞳をじっと覗き込んだ。
「………その目、仕事を決めた時と同じだな」
「え?」
「なに、リネルらしいなと思っただけだ」
クロロは例の剥製像まで足を進める。そしてリネルに告げた。
「そろそろ行けよ」
「え」
「これからまた、もう一仕事しようと思ってるんだ」
「そっか」
「お前もまだやることがあるだろう?」
全てを見透かす真っ直ぐで吸い込まれそうな瞳を向けられる。リネルは一直線にそれを見つめ返した。
「……クロロ、あんまり無茶はしないでね」
「お前こそな」
「命は大事にしてね」
「ああ。わかってるさ」
喉で笑いながら茶化すように言うクロロに リネルは噛みしめながら言葉を送る。
「私は……クロロの仲間だから、ずっと……」
「そうか。そうだったな」
リネルはホールの入り口まで足を進めた。
大きな扉に手をかけた後、ふと振り返った。
「クロロありがとう。話せてスッキリした」
「こちらこそ。礼を言うのはオレの方だ」
「……………除念師?」
「もちろん。そう言えば支払いまだだったな」
リネルはクロロに自然な笑顔を見せる。
「いいや いらない。クロロへの置き土産」
「最高に嬉しいプレゼントだな」
しばし見つめあった後、リネルは走るようその場を去った。