第6章 気付き
「……」
時は夕暮れを過ぎている。
リネルへの明日の用件を言い終えたイルミは携帯電話を伏せ、待ち合わせに今だ到着しない人物へ微かな苛立ちを感じはじめていた。
待ち合わせ場所のラウンジで手元の酒を傾けながら、明日の事を考える。
仕事の予定をやりくり出来たおかげで 明日にはようやくリネルを屋敷に招く段取りが整った。このままとりあえず、親の了承さえ取ってしまえばこの件は一件落着に近いと言える。
そろそろ頃合いか。
催促のメールでも入れてやろうかと携帯電話に手を伸ばした矢先、測ったようなタイミングで後ろからよく知る声が聞こえてきた。
「ゴメンよ。遅くなって」
少しも急いでいる様子のないヒソカは余裕ある仕草で隣のスツールに腰掛けてくる。それを横目に、イルミは携帯電話を元の位置に戻しヒソカに返事を返した。
「呼び出したのヒソカの方だろ。仕事の話に遅刻するってどういうこと?」
「だからゴメンてば」
軽口を叩くヒソカに対し、イルミは早速仕事の話を始めた。
ヒソカといえば、普段何をしているのかは謎に包まれているし 殺しにも好みがあるのかもよくわからないが 時々イルミにこうして仕事を投げてくる。金払いは悪くないのでイルミにすればとりあえずは大事な顧客、というわけだった。
その方の話はすぐにまとまる事となる。
用件が済んだ後 その場を素早く去ろうとするイルミは、一言だけヒソカに声をかけた。
「あ、ヒソカには一応報告しておこうかな」
「報告?」
「うん。オレ結婚することになったんだよね」
ヒソカに驚いた様子はない。むしろ愉しそうなまでの雰囲気で、柔らかく頬を緩めている。
「それはおめでとう♡キミは家柄的にも結婚早いと思ってたけどねぇ」
あっという間に、どこから出したのか。
ハートエースのトランプを指の間に挟んだヒソカは やや眉を落とす、少々残念そうな声を出した。