第59章 本音の本音
「………あのね」
リネルはクロロを見つめながら、自分の知る限りの過去のクロロの姿を思い出していた。
遠い昔から1番近くにいた存在であり、飽きる事もなく何度も何度も追って回ったその姿を見つめていると、いつの間にか視界が滲んでしまいそうになる。
「………私」
近付きたいと思っていた事。認められたいと思っていた事。追えば追うほどに遠い存在だと知った事。いつしか側を離れ 適度な距離を取るようになった事。それでも完全には離れられずにいた事。
自分の感情に臆病だったし強がっていた。自身の本心に蓋をして何でもないフリをずっと続けてきた。
我慢を重ねすぎて既に、自分の本音すら自分で気付けなくなるほどに。
今までの想いが胸をよぎり、それを形にするように喉元から熱がこみ上げる。リネルは震える声で 大切にクロロの名前を呼んだ。
「……クロロ」
「なんだ」
「……思うことがあり過ぎて、うまく言えなそう、で……」
「お前に世話を焼くのは今更だ」
「……だから、ひとつだけ、聞いて……」
クロロの眼差しはいつもの通りだ。柔らかさの中に底知れぬ強さを重々に秘め、それゆえの絶対的安定感がある。
時をも止めるほどにクロロの凛とした静寂さの中、リネルはゆっくりクロロに近づいた。
自らこの人に手を触れる日が来るだなんて、リネルには想像すらしえないことで。
リネルはクロロの胸元部分にゆっくり両手を伸ばした。指先から溢れるのは、欲しくて欲しくてずっと焦がれてきた確かな愛情だ。
クロロの服をそっと掴み、自らの背を伸ばす そしてかかとを持ち上げた。
熟れた気持ちを伝えるこの一瞬が、今までの何よりも色を持つ気がした。
リネルはクロロの唇に自身の唇を触れる程度に押し重ねた。
噛み締めた口元と滲む目元を隠すように、リネルは頭を大きく下げる。クロロの胸元からは相変わらず、全てを受け入れるがごとく穏やかな心音がする。
「私の初恋は……クロロだったよ……っ」
「それは光栄だな」
低くも優しい声色で述べ、クロロはリネルの頭をそっと撫でた。