第59章 本音の本音
肩を震わせるリネルを見下ろし、クロロは静かに微笑んだ。
「一体何を嘆く必要がある。今生の別れでもあるまいし」
「…………失恋て、…………辛いね」
「過去の話だろ。大袈裟なやつだな」
「……っ、」
「大体 今更初恋だなんてお前は言うのが遅過ぎるんだ」
リネルは顔を上げる。崩れた表情を隠す事もなく クロロを見上げて口にした。
「…ならもし、…もしも昔にそう言ってたらクロロは私の側にいてくれた?」
「そうだな。……」
クロロは懐かしむように 遠くを見つめる瞳を見せた。
そして急に、リネルをきつく抱き締めた。
「……ク……クロロ……っ?」
「あの頃は今以上に欲しい物もやりたい事もたくさんあった。お前も知っての通りな」
「……うん」
「でもオレはオレで、お前を側においておきたかった」
クロロはますますリネルを抱き締める腕に力を入れる。
リネルの背が反るほどに腕を回し、リネルの肩に顔を埋め小声で言葉を紡ぐ。
「リネルが成長していく姿や努力している所を見ているのはそれなりに好きだった」
「……」
「そんなお前がいつかは、オレの元に戻ってくるんじゃないかってオレはどこかで期待していた」
「……」
「それもお前が結婚していよいよ諦めがついたつもりだったんだが。イルミが目をつぶるとも思えないしな」
「……」
「オレはな。リネル 」
そこには確かに、噛み締めるような間があった。
「こじれたらすぐに終わる男女の仲なんかよりも、生涯頼れる仲間としてお前をずっと側に置いておきたかった。これがオレの本音だ」
愛おしく思う身に抱かれ、懐かしい香りに包まれて。切ない思いがただひたすらに込み上げた。
リネルはほんのりとだけ、クロロの腕を抱き返した。
「そんなの、ズルい……」
「なに?」
「きっぱり振られるよりも……切なくなる」
「そうかもな」
クロロはリネルの耳元で小さく笑った。