第58章 疲れ
キキョウが部屋を去った後、急ぎ支度を済ませリネルはゾルディック家を出た。
そして携帯電話を取り出すと着信履歴欄からすぐさま一件の電話をかけた。
捕まるかは定かではない。
耳には数回のコール音が響いていた。
しばらく続いた単一的な機械音が止んだ後、リネルは第一声でハッキリと言った。
「クロロ?!今から会えない?」
「唐突だな。どうした?」
「クロロに会いたくて」
「お前 忙しいと言っていなかったか。オレにも予定があるんだが」
「ちょっとだけでいいの……!」
いつになく必死な声を出すリネルにクロロは小さく息をついてから答えを返した。
「えらく必死だな。どうした」
「……私の今後のけじめのために、クロロに話したいことがって……」
「けじめだと?」
「……うん。」
意図まで伝わっているかは定かでない。もしも伝わっているならば クロロからすれば、とんだとばっちりでもある。
それでもこれだけは引けなかった。ワガママは百も承知だ。
自ら直接告げることで、自分自身の確信に触れることが出来る気がした。
無言の気迫が伝わったのか、クロロが電話口で低く笑う。その声色にはどこか甘い響きがあった。
「ふ、……」
「な、なに?」
「オレも大概 お前に甘いな、と思ってな」
「…………」
「オレもお前と、話すべきなのかもしれないな」
「え……」
「建前や理屈はなしに 裸になるか、お互い」
「クロロ……」
「その覚悟があるなら会いに来い」
ぎゅうと胸が締め付けられる中、リネルはクロロに返事を返した。