第58章 疲れ
普段と変わらずスンとしたまま表情のないイルミに対し、いきなり撮られたものだけに 自分だけはきょとんと驚いたような顔をしているのが妙におかしく見え、鼻先でふっと笑ってしまう。
その表情が哀愁漂って見えたのか、キキョウは少し声のトーンを落とした。
「ここでの暮らしは寂しいかしら?」
「え?」
「イルミもアレで、忙しいものね」
「まぁ。でも仕事は仕方ないですし」
「せっかくリネルちゃんお休みなのに。予定が合えばこうやって2人でお出かけしたりも出来るのにね、パパに配慮するよう言っておかなくちゃ!」
リネルは無言のまま 手元の写真をじっと睨んだ。
「あのコとうまくやれてるかしら?」
心配そうに言う キキョウの声を聞きながら、手にしている写真の端を指先でキュッと潰すように握りしめていた。
「リネルちゃん?」
「……今日はこれからちょっと出掛けてきます。」
「あらそう。どちらへ?」
「折角お休みだし………自分戒めというか自分磨きというか、やりたい事があって」
リネルは写真からキキョウに目線を移した。
キキョウの卵型の輪郭はイルミに瓜二つだ。決意を口にするようにハッキリと言った。
「……きっとまた こうやって一緒に出掛けたりする機会もありますし。その時に堂々と隣に……並べるように……」
「あらまぁ 」
リネルの言葉を聞くと、キキョウはころりと楽しそうな声を出した。
「いいわねぇ!外へのお出掛けも。貴女若いしお洋服選びもサロン通いも楽しいでしょう、羨ましいわぁ」
「なので今日の事はその……誰にも秘密にしておいてもらえませんか?」
「ええ もちろん!女同士の秘密にしましょ。女はこっそり人知れず 死ぬ努力の元で美しくいたいものねぇ」
少女のようにはしゃいだ雰囲気を見せるキキョウに リネルは笑顔を見せた。
「キキョウさんがいつも家でもおキレイにされている理由がわかりました」
「ほほ お上手ねぇ」
「見習わなきゃ 私も」
「とにかくそういう事情なら長居しちゃ悪いわよね。ゆっくりしてらしてね」
満足そうに唇を綻ばせた後、キキョウはリネルの部屋を去った。