第56章 回答
「…………」
リネルは先程スノークロノス社で見た光景を思い出していた。
耐性や致死量を図るために無理やり薬を投与されたであろう、変色し奇形したマウスや犬や猫。
脳がやられているのか狂ったように激しい啼き声をあげながらケージの中を這いずり回るその様。
目の当たりにすることがなかったのは不幸中の幸いかもしれないが、データ上では人間にまで試した結果が生々しく記載されていた。
幼子や老人もその例外ではなかった。
そして心ない実験の犠牲者になった人間は全てが流星街より集められた者達であった。
彼らの次なる実験は能力者への効用であるらしく そのシミュレーションを組んだデータも機械に残されていた。
主犯の目的は 金儲けなのか単なる化学者のエゴなのかはわからないが企業内で非人道的な事が行われているのは確かであった。
人間味の欠片もないその内容に 今すぐにでも全てを壊して帰りたい衝動にも駆られたが、今回のリネルの命はあくまでも調査。
明日も企業内見回りの任がある以上 自分1人で勝手な行動をとれば向こうの警戒心を強めるし、下手をすればリネルとて非検体にされる可能性がないとは言い切れない。
ここまで非道な内容であれば 報告をすればすぐに対処の手が動く事は想定出来、リネルは下唇を固く噛み締めながらスノークロノス社を後にしたのだった。
「……悪趣味」
リネルはホテルの部屋の暗闇の中で、悔しげに口にした。