第55章 距離
ホテルに戻ってからリネルはイルミへの電話を折り返した。
直接話すのは一昨日にイルミの部屋で会話にならない話をして以来。
少しの緊張感の中、リネルは耳にやたらハッキリ聞こえるコール音の回数を無意識に数えていた。
コール音を5回目まで数えた後、その音がピタリと止まった。
「もしもし?あ、えっと……ごめんね出れなくて。ちょっと外出てて」
「今は?」
「ホテルに戻った」
「そう」
「……イルミは?今は家?」
「出先」
「仕事?」
「うん」
「そっか」
「リネルが出張って珍しいね」
「うん。たまにある……結婚してからは初めてだけど」
「出張って何するの?」
「色々、仕事内容はその都度違う」
「今回は?」
「ある調査の仕事」
「何を調査するの?」
「まだ詳しくは言えないけど」
「ふうん」
「……イルミは?」
「え?」
「仕事、何するの?」
「何ってウチは暗殺稼業なんだからオレの仕事は8割殺しだよ」
「それは知ってるけど。……どこでとか、どうやってとか…そういうの聞いたことなかったなって……」
「依頼人からの情報は守秘義務がある」
「そっか」