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〈H×H 長編〉暗殺一家の嫁

第55章 距離


1人になり ホテルまでの帰り道、リネルは一気に頭を切り替え これからのスノークロノス社での仕事について考えていた。


“日付が変わるくらいに侵入。建物の配置図は頭に入ってるし まず警備室おさえてから技術と工場、入れそうだったら社長室も探れば何か掴めるかな……。”


少し目元をきつくしたリネルは、予定よりも話し込んでしまった事に 携帯電話で時間を確認した。


「あ、……」






バッグに入れておいたために気付かなかったが、最新の着信履歴に残っていた名を小さな声で口にした。


「…………イルミ」


その名前を見ながら リネルはさっきまで語っていた 出逢った頃の事を再び頭に思い返していた。

出逢いこそ数年前ではあるものの、仕事以外では連絡を取り合う事すらなかったビジネス上の関係。

それがいつしか男女の関係にまで発展したものの、物理的や状況的に互いのニーズが一致することはそう多いわけではなく、実際 顔を合わせた事は数えられるくらいと言えば そうであった。

知り合ってからの年数の割には少ないイルミとの時間をたぐるように、結婚することになった以降の事も次々と思い出していた。


プロポーズをされた日を。初めてゾルディック家を訪れた日を。母キキョウの計らいで指輪を買いに行った日を。引越しの日を。婚姻届を書こうにも書けなかった日を。父シルバの好意で新婚旅行へ行った日を。


つい数ヶ月前であるのに、何故かそれが出逢った頃と同じくらい遠い昔の事のように感じられる中、リネルは携帯電話の中のイルミの名前だけをじいと見つめていた。










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