第5章 後押し
店の外に出るとタイミングよくリネルの携帯電話が震えだした。ポケットからそれを取り出し画面に映る着信の相手の名を確認し、リネルは大きく瞬きをする。
横からその様子を伺い、クロロはリネルに指摘を投げた。
「出ないのか?」
「いや、出るけど……」
「イルミだろ?」
「…目ざといね…クロロ…」
リネルはクロロから少し距離を取る。
声を落とし嫌味を込めた言葉で、電話に応じた。
「随分とお久しぶり」
「そうでもないだろ。何、寂しかった?」
「はぁ!?んな訳ないでしょ!!」
「リネル 明日ウチに来てよ」
「明日!?急すぎる。仕事あるし無理」
「調整して。仕事とオレの用事とどっちが大事なの?」
「…それって女のコの台詞なんだけど…」
イルミの唯我独尊である言い分には溜息しか出なかった。
挙句の果てには「明日に予定を工面してくれたら代わりに給与分は払う」と、金での解決を言い出す始末だ。無理やりと言える了承を取り付けた後、イルミはあっさり電話を切る。
たった数分の電話だけで実に疲弊した思いだった。携帯電話を元のポケットに戻し振り返ると、どこかにやついた顔をしたクロロと目が合ってしまった。
「良かったな。連絡あって」
「良くないよ。勝手すぎる。何もかも」
「まあそう言うな」
リネルは不機嫌な表情を深めていた。