第5章 後押し
リネルはふうとため息をつく。
自ら第三者に語ってみてもこの結婚は正しい形とはどうしても思えなった。
リネルは肩を落としているし、瞳はうつろで口元もしゅんと下を向いている。そんなリネルを見ながらクロロが言う。
「そんなに悩むならやめたらどうだ?」
「……やっぱ、そうなの…かな……」
「大体相手はあのゾルディックだ。本気の夫婦喧嘩になったらお前殺られるぞ、確実に」
「へっ?!……そうだ、ヤバい……そこまで考えてなかった……っ」
「アイツの親父とじいさんとは闘った事はあるが。……正直思い出したくもない」
「…………っ」
クロロは思う、今日のリネルは百面相だ。
先ほどまでは不安そうにこちらの顔色をうかがっていたかと思えば、結婚の話題となった途端しどろもどろに照れ隠しにも似た言い訳三昧、今では顔を青くして口をぱくぱくさせている。
クロロはゆるりと口元を曲げる。はっきりと、リネルの相談の根源を指摘した。
「マリッジブルーってやつだろう。俗に言う」
「はぁ?違う!それじゃあまるで私がイルミのことちゃんと好きで結婚悩んでるみたいじゃん!」
「違うのか?潜在意識ってのは自分では気づかないものだ」
「違うから!利害の一致が理由なだけだし!」
「何にせよ、心底どうでもいい奴だったらプロポーズなんか受けないだろ」
クロロの興味はすでにどこかへ逸れたのか。視線を斜めに落とし冷めた珈琲を飲み干している。リネルは下唇を噛みながらクロロに真剣な目を向けた。
「…結局クロロ、肯定してるの?否定してるの?どっちなの…」
眉を寄せるリネルに、クロロは笑みを浮かべて答えた。
「お前の事だ。言っても素直に認めないだろうがつまりはオレに背中を押してもらいたい。そういう事だろう?」
「……それがわかんないんだって……」
「ならきっぱり決めてやる。コインで」
「……そんな大事なことそんな決め方は嫌」
「明察だ。なら自分のケジメは自分でつけろ」
クロロは静かに席を立ってしまう。
リネルは数歩遅れてクロロの後につき、店を出た。