第54章 追憶
その後、2人は並んだまま 今日の互いの経緯について話していた。
上司命令でこの場でターゲットを殺害する事になっていたリネルに対し、イルミもまた 家族から本案件を振られただけだと主張した。
どこか食い違いもあるようだが 両者とも暗殺の仕事の元 この場に居合わせた、そのことだけは間違いなく 一応は丸く収まった結果に対し、リネルは首を傾げながらもイルミを見つめて言った。
「…まぁいっか。今回はイルミさんのおかげで無事に終わったし細かい事は」
「依頼人がいいならオレもそれでいいよ」
一通りの話を終えた後、イルミは不思議そうにリネルに問い掛けた。
「リネルもハンター協会の人間なんだし能力者だろ。今回の相手は別に強くもなかったし自分で殺れば良かったんじゃないの?」
「…ん、…ええと、プロを前にして自分でっていうのも勇気がいりますし…」
前回の失敗等細かい理由を説明するの気にもなれずリネルは少し言葉を濁した。
イルミはそんなリネルの横顔を 伺うように見た。
「殺しが怖いの?」
「…好き好んではやりませんし、極力やりたくはありません。……でも、仕事だったり保身だったりのためには…必要な場合もあります」
「ふうん」
興味なく答えた後、イルミがその場を動いた。
「じゃあ仕事終わったしオレは帰るよ」
「はい」
「また殺したい奴いたら依頼して。回りくどいし次からは直接投げてよ」
「…え」
「連絡先」
名刺ともメモとも言えるような小さな紙をリネルに手渡すと、イルミは部屋の入り口に足を進めた。
リネルは手元の紙を見つめ 微笑を浮かべた後、イルミの背中に向かって礼を述べた。
「イルミさん、今日はありがとうございました」
「依頼人そっちだし本来それ言うのオレだよ。アリガト」
「そっか。そうでしたね」
「だからさん付けも敬語も別にいらないし」
「…うん、わかった」
イルミは肩越しにリネルを振り返った。
「じゃあね」
「うん。お疲れさま」
そして、イルミはその場を去った。