第54章 追憶
そして数ヶ月後。
仕事で初めてとも言えるレベルの大失敗をしたことも何となく忘れはじめた頃。
リネルの元に再び一件の仕事が舞い込んできた。
「こちらの処理、お願い出来ますか?」
「え、これ…暗殺、ですか?」
「ええ、そうです」
いつになくしれっとした声で言うパリストンに リネルは驚きの顔を向け 伺うように小声で聞いた。
「その…、私でいいんでしょうか…」
つい昨日の事のように前回の失敗を思い出し 不安そうな顔を見せるリネルに、パリストンは諦めたような顔を見せた。
「僕は正直 貴女にはまだ早いかなと思ってはいるんですけどね」
「なら…その、他に回せませんか?」
「すでに決定事項なんです。そしてこれは命令です」
「……そうですか」
リネルが差し出された資料を控えめに受け取ると、パリストンは補足を述べた。
「今回は処理の日時が決まっています、その通りにお願いしますよ」
「…わかりました」
命令とまで言われたら当然断ることも出来ず、リネルは手元の資料をぱらりと見てからパリストンの前を去った。
実施の日時が書かれたメモを確認し、リネルは深呼吸のように大きく息を吐いた。