第54章 追憶
その日の晩。
リネルはクロロと隠れ家のような小さな酒場のカウンター席におり、強めの酒を煽りながらぽつりぽつりと愚痴るように仕事の失敗について話していた。
クロロは頬杖をつきながら、呆れた顔でそんなリネルの横顔を見ていた。
「大体お前な、こっそり1人殺るくらい出来なくてどうする」
「だって…。緊張して殺気出さないようにってそっちばっかり気にしてたらさ、つい手元が甘くなって暗殺のはずがやり口が派手になっちゃったんだもん…」
「ならそれを見たってヤツらもついでに殺ったら良かったんじゃないのか?」
「ダメだよそんなのは…関係ない人巻き込めないしそんな事したら余計に怒られちゃう」
クロロはリネルの顔を覗き込み真顔で言った。
「細かくて面倒くさいな、何故ハンター協会なんかに入ったんだ?」
「…早く一人前になりたかったし」
「そのくせいつまでたってもオレを頼りきりじゃないか」
「…そ、…かもしれないけど」
リネルは手元の酒を一気に飲み干した。
「だって相談か何かないと……クロロは最近私に構ってくれないじゃん」
「オレだって暇じゃない。こうやって付き合ってやってるだけありがたいと思え」
「…わかってる、けど」
クロロは、寂しそうな顔をするリネルの横顔を見ながら余裕の笑みを浮かべた。
「そんなにオレの側にいたいならウチに来てもいいんだぞ?団員倒せば出入り自由の決まりにしてあるしな」
「クロロも皆も大事だけどさ、そしたら私は今まで以上にクロロに頼っちゃうよ。……身を置くには危険すぎるし」
「よくわかってるじゃないか」
「私クロロみたいに自殺願望ないし」
「それがお前の甘さと可能性への足枷だな」
リネルは グラスを口に運ぶクロロを赤い顔で見つめた。
「私だってそうは思うけど…クロロほど潔くはなれないよ」
「頭で理解するのと実際受け入れるのはまた違うしな」
「……私、クロロが死んだら、…嫌だよ」
「相談口がなくなるしな」
「違うよ。……寂しい……よ……」
「弱気なことを。」
クロロはクスリと笑みを漏らした。