第54章 追憶
数日後。
リネルはパリストンの前で肩を落とし頭を垂れていた。
「すみませんでした……」
「もういいですよ」
リネルの初仕事である暗殺は、はっきり言って大失敗に終わった。
相手を絶命させるという意味では任務は完了したのだが、そのやり口が荒く 数名の一般人の人目を引く事態となり ちょっとした騒ぎになってしまった。
大義名分は何にせよ殺人現場、決して一般人に見られてはいけなかった。
リネルは顔を下げたまま、再びパリストンに謝罪を述べた。
「本当に、…すみませんでした…」
「いいですって、もう顔を上げて下さい。…貴女にこの仕事をお任せしたのは僕です。貴女の力量ではまだ甘かった、貴女を買い被りすぎていた、つまりこれは僕の責任ですから」
「………」
重く心に響く言い方をするパリストンの顔をちらりと見れば、そこには普段の笑顔がなかった。
見たことがないパリストンのその表情に、リネルは気まずそうに顔をそらすしかなかった。
パリストンはわざとらしく大きな溜息をついた後、首を傾げて言った。
「……まだ何か?報告書の作成や本件の審議会の準備で忙しいんですが」
「えっ…はい、…すみません…っ」
「あ、そうそう、こちらの書類まとめて次のハンター役員会で使えるように準備しておいて下さい。簡単なのでこれならミスのしようもないと思いますので」
パリストンは束ねられた資料をリネルに差し出した。
その動作はいつもと変わらず至極丁寧であるが、冷たい声色にリネルは書類を受け取ると 再び謝罪を述べ、逃げるようにパリストンの前から立ち去った。
リネルは 惨めとも後悔とも言える感情を胸に抱いていた。