第52章 出張
目の前に並ぶ8名の いかにも企業重役といった重々しい雰囲気の中年男性を目線だけで素早く観察した。
前情報では重役は7名、解せない思いで彼等を見る。
1人だけじっと手元の資料に目を落とし、顔を確認出来ない人物にリネルは目線を固定した。
見覚えのあるその風貌に リネルは少しだけ眉を上げた。
その人物は小難しそうな顔をしながら手元の分厚い資料をぐしゃりと握り、顔を上げた。
「おいおい何ページあんだよこりゃ。簡単な質問だけって話だったハズだろ」
「まぁ先生、そう仰らずに」
「話がちげぇぞ……って、は?!リネルちゃん?!」
「……レオリオ……」
リネルは内心焦っていた。
ここでハンターだと正体を明かされては、スノークロノス社に警戒心を与えるだけであるし 身元を偽って企業に潜入した事がバレると一時的にも罪に問われ面倒な事態にも発展しかねない。
レオリオに事情を組むよう伝えるべくアイコンタクトを送っていると、レオリオの隣に座っていた人物が怪しむ声を出してくる。
「先生、調査機構の方とお知り合いで?」
「え?…え~…あー…まぁな」
「ほぅ。大病院のお医者様が一般企業を調査する機関の方と一体どういった知り合いなのでしょう?何よりも先方様のお名前が異なっておいででしたが 何かご事情でも?」
警戒心むき出しとも言えるその聞き方に リネルは、スノークロノス社の中に何らか隠さなくてはならない黒いものがあるのを直感で感じた。
同時に、レオリオにはうまくこの場をごまかしてもらうよう祈る思いであった。
「えっと、ほらアレだ!……ゴルコン!!この前ゴルコンで知り合ったんだよ、な!」
「……え、ええ。あの節はお世話になりました」
「…………。…………そうでしたか」
「そうそう!こう見えて彼女スイングすげーんだぜ?!しっかもアレだ……名前は、……あ~……副業!副業が流行ってるこのご時世を先駆けてキャバクラ経営までしてんだぜ彼女。リネルってのは現役時代の源氏名で……なぁ!?」
「……はい。先生のおっしゃっる通りです……。」
油断をしたら眉間にしわが寄りそうだったが。誤魔化し方はどうかとも思うが、何とか間一髪。そして素知らぬ顔付きのまま、その日の分の名目調査をはじめた。