第52章 出張
翌日。
「行ってきます」
「ご出張と伺っております、お気をつけて」
ゾルディック家の使用人に要件を説明し挨拶を述べ、まだ早朝のうちにリネルは製薬会社スノークロノスに向かい出発した。幸い昨日はイルミは不在で顔を合わせる事もなかった。
道中の特急車両にて、リネルは携帯電話を取り出すと イルミに簡潔なメールを投げた。これはまた、居場所がどうや話がどうのと イルミとこれ以上揉めるのを防ぐための理由だ。
無題
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出張が入った。
今日から何日か家空けるね。
家出じゃなくて仕事だから
リネルは携帯を膝に握り窓の外を見る。そして昨日の事を考えた。
「はぁ………」
出てくるのは大きな溜息しかない。
リネルは考えることをやめるよう、着込んでいた上着を脱ぎ大きく伸びをする、そしてバッグから資料を取り出した。
今のような頭の中が混乱だらけな状況では、それを考えずに済む口実になる仕事の存在がありがたいとも言える。移動時間の殆どをそれに費やし スノークロノス社の調査項目書を今一度確認していた。