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〈H×H 長編〉暗殺一家の嫁

第52章 出張


翌日、ハンター協会本部にて。


「リネルさん 今日はまたえらくお疲れモードですね。」

「大丈夫です……」


対するパリストンは今日も派手色のネクタイがばっちり決まっている。リネルは やつれた笑みを返した。

昨日は結局 自室に戻った後もイルミを警戒しほぼ一睡もできず、気持ちの面でも整理が付かずに複雑な思いのままでいた。

正直 こんな日くらいは仕事を休みたいとも思うが、なかなかそうもいかず、今日も普段通りに出勤していた。

パリストンは心身を痛めるリネルの前に容赦なく、束ねられたファイルを差し出した。


「ある企業の調査をお願いしたいのですが」

「企業、ですか」

「ええ。スノークロノスってご存知ですか?」


覚えのある名だ、TVCMでも耳に新しい。リネルはすぐに返事を返した。


「はい。製薬会社ですよね?中堅くらいの」

「そうです。どうもそちらで不穏な動きがあるとかないとか」


意味深に言うパリストンの瞳の奥には確信に近い色がある。リネルは差し出されたファイルに手を伸ばした。


「つまり、能力者絡みで何かあるかもしれないから一般機構ではなくウチに依頼が来たんですね」

「そうです。国を跨いでの依頼なんですが」

「てことは書類提出や報告書やらが多くて超面倒って事ですね……」

「そこを何とかお願いしますよ!当然出張手当も出しますから」

「出張?」


リネルはまばたきをし、パリストンの顔を見つめた。


「ここの本社は意外と過疎地でして。なので泊り込みでのお仕事になってしまうかと」

「へえ そうなんですね」

「新婚のリネルさんには不向きかもしれませんが」

「いえ 別に大丈夫です」


リネルは困り顔ひとつ見せず、パリストンに返事を返した。


「そう言ってもらえると助かるな。調査項目の書類は全てファイルに入れてあるのでよろしくお願いします」

「わかりました」


パリストンは背広の胸元で震えるスマートフォンを取り出しながら、軽快にその場を去っていった。


私生活はごたついているがこのタイミングでの出張とは、今はまだ身辺整理の時期ではないとのお告げなのだろうか。正直、ホッと息をつける自分がそこにいた。




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