第51章 話合い
「いい?」
「…っ…」
「触っても」
「……うん」
これは賭けだ。ここで触れられ愛おしさの欠片すら感じられないならば金輪際、この結婚生活に希望を見出せない気がした。
イルミはゆっくり触れてくる。掌が首筋を静かに撫でてくる。自分の意思を確かめるようリネルはそこに集中した。
「オレはさ」
突如、イルミは触れた首筋に顔を埋めてくる。暖かい感触を這わされるとほんのりリネルの肩が揺れ 吐息が漏れてしまう。
甘美さのある反応とは裏腹に、リネルの身は今もなお固く 剥き出しに猜疑心の塊だ。イルミは首筋から細やかな声で言う。
「力抜いてよ。手は出さないって言ってるだろ」
「……だ、出してる、じゃん……」
「こういうコトもダメなの?」
「……、こういうのは……ダメじゃ ない、けど……」
「出さないと言ったら出さないよ。リネルも大概オレの事わかってないよね」
イルミは再びリネルに身を寄せる。
「ねぇリネル」
心と身体がバラバラみたいだった。甘い刺激に身が跳ねても、心はいまだにそれに拒絶反応を示してしまう。
「オレはリネルを死なせたくないし危ない事も本当は極力させたくない」
「…っ…」
「だからそうならないように言う事を聞いて欲しいしリスクを含む隠し事もやめて欲しい」
「…っ…」
「恐怖で縛りたいワケじゃないしリネルの嫌がる事をあえて強要したいわけでもない」
「…、…」
「わかる?」
ふと顔を上げ、顔を覗き込んでくるイルミを見つめリネルは小さくうなずき、下を向いたまま答えた。
「わかる、よ……」
「そう」
イルミの広い掌がじっと穏やかに、リネルの後頭部をひと撫でする。
「記憶がなくなった時、リネルに聞かれて考えてみた事がある」
「…」
「リネルの事は元々好きでも嫌いでもなかったし」
「…」
「依頼人の1人でしかなくて全然興味もなかったし」
「…」
「結婚してからは家族として大事には思うようになったけど」
「……っ」
「今はリネルのことが
「イルミ」
リネルは咄嗟にイルミの名を呼んだ。