第51章 話合い
「それはオレも同じ」
「え」
「リネルの嫌がる事を強要したくて結婚したわけじゃない」
「…っ…?!」
忍び足、の華麗なるや鳥肌が立つほどだ。
イルミは急にリネルに距離を寄せる。
びくりと肩を震わせますます警戒を高めるリネルの身体を、逃さぬようドアに背にして囲ってしまう。
指一本触れていないのに、全身が目の前の人間を拒否している。リネルは怯えた顔付きで、薄暗い部屋の闇と同化しそうなイルミの黒い瞳をじっと見上げるしかなかった。
「……嫌」
「手は出さないって」
「じゃあ離れて」
「どうして?」
「イルミが……怖い」
「怖い?何が?」
「イルミの……力も……考え方も……っ……」
リネルの瞳からはうまく言葉に出来ない感情が溢れるように、涙がこぼれていた。
「別にリネルを怯えさせたいわけじゃない」
「じゃ、……離れて……っ」
「泣かせたいわけでもないよ」
「……もう、わかんない……」
「さっきからそればっかりだね」
「もう色々……わかんないし疲れた…っ…もうやだ……」
「やだって何が?」
「考えるのも答え出すのも……もういいよ……イルミの気が済むように、好きにしたらいい」
「今朝冷静に話したいって言ってたのに 全然冷静じゃないよ、今のリネル」
「だってもう、この先……イルミとどうしていったらいいのか、わかんないもん……っ」
「ならわかってよ。」
「……っ……」
「わかろうとしてよ。オレのことも」
イルミはリネルに片手をそっと近づけた。反射的にリネルの身体がびくりと大きく引ける。
不穏なオーラも敵意もない、威圧感も消えている。むしろあるのは、男女としての柔らかい仕草の方だ。わかっていても今朝のこともある。身体が勝手に、全力でイルミを拒絶してしまう。