第50章 帰路
キルアは大きく溜息をつく。
リネルの両頬に手を添えると リネルの頭を起こし じっと顔を覗き込んできた。
「らしくねぇのな」
「ごめん……っ、色々、考えちゃって」
「まぁ、いいけどよ」
「……めちゃくちゃカッコ悪いよね私。もう泣き止むから……」
泣きながら下手な笑顔を見せるリネルに、キルアは猫目を細めて鋭い声で言う。
「リネル」
「ん……?」
「歯食いしばれ」
「え……?」
キルアの手刀は目にも止まらぬ速さだ。スパンと小気味いい音と共に掌で両頬を叩かれた。
「……い、った……」
「止まったじゃん」
「……え……」
「涙」
「……ん。……にしてもスパルタ……キルア……」
「なに、ほっぺにチューとかのが良かった?」
「……今 気持ちが弱ってるから、その方が良かったかも」
「真顔で言ってんじゃねーよ」
キルアはまるで子供をあやすよう、リネルの頭を強めの力でぐりぐり撫でつけてくる。これはキルアなりの励ましなのだろう、その意図は伝わりリネルはほんのり笑顔になる。
「ま、泣きたい時って泣いてもいいんじゃねーの?」
「……うん」
「その方が人間らしいし可愛げあんだろ」
「……ありがとう。キルア」
ようやく、自然な表情で顔を弾ませるリネルを見つめてから キルアはその場から腰を上げた。
背筋を伸ばすキルアはリネルに背を向け、帰りの方向へ向かい歩き出した。
「リネル」
「ん……?」
「オレはリネルの味方だから」
「キルア……」
「だから。なんかあった時は いつでも頼れ」
「うん。……ありがとう」
キルアの言葉がぐちゃぐちゃになった心に沁みるようだった。
いつぶりかもわからない涙を流したことに少しだけ気持ちが晴れた気がする、何よりも やらなければならないことが明確になったのは間違いないだろう。
気持ちを整理し話をつけなくてはいけない。白黒はっきりさせなければならないことがある。今夜の逃亡計画は未遂に終わったが、目的が定まったことは良かったのかもしれない。
自分自身へも言い聞かせるよう、リネルはキルアに言った。
「帰ろうか。家に」
「だな」