第50章 帰路
「……ん」
「キルア?!」
背中で僅かな声を立てるキルアに、リネルは足を止めて後ろを振り返った。
ふと顔を上げたキルアは 目の前のリネルの髪の香りに気付き、目を見開き焦った声を出した。
「……オレ、ヒソカに…っ リネル大丈夫か?!」
「私は大丈夫。キルアこそ大丈夫?殴られたところ腫れてきてるけど」
「これくらい余裕。ゴンは?」
「ゴンは無事。もう帰ったよ」
「そっか。つーかここ外か!?まず降ろせよ!」
リネルはその場に片膝をつくと、キルアを降ろし振り返り申し訳なさそうに見つめた。
キルアは気まずそうに目線を外し、悔しがる声を出した。
「クソっ……あのイカレ野郎……何がどうして急にああなったんだよ」
「ごめんね。キルアを、巻き込んじゃって……」
よく見ればリネルの目元が腫れている。キルアは声のトーンを低めた。
「オレの方こそ悪かったな、役にも立てなくて。少し油断してた」
「全然だよ!……とにかくキルアが、キルアが無事で、よかった」
「……ちょ……リネル?!……っ」
リネルはキルアの肩、背中にまで大きく腕を回す。見た目よりも年齢よりも、ずっと逞しさのある身体に抱き付きながら言った。
「…っ、キルアぁ…、……ごめんね、っ」
「おい、何泣いてんだよっ」
「私のワガママに付き合わせてっ…もしキルアに何かあったら…っ」
「だから大丈夫だって。今まで何度も死にかけてんし」
「キルアは……何より大事な跡取りだから……絶対に守らなきゃいけないのにっ」
キルアは遠慮がちにリネルの頭を撫でてくれる。そして少し低い声を出した。
「リネルまでやめろよ、そういうの。」
「でも……っ」
「信用ねぇな。ま、現にヒソカにやられたし頼りないかもしんねーけど」
「キルアは今朝……私を、助けてくれたし」
リネルは今朝方のイルミとのやりとりを思い出していた。
「キルアは頼りになるし、頼りにしてる」
「リネル」
「今朝もだけど、ヒソカのことだって私1人だったら、もっと迷惑かけることになっていたかも、わかんないし……」
止まらない。リネルの視界はどんどん涙に歪んでいった。