第48章 追跡
クロロはイルミの服の袖口から覗く白い包帯を指差した。
「珍しいな、お前が傷を負う姿は初めて見たぞ」
「ああこれ、リネルにやられた。そのあとの弟の追い傷のが深いんだけど」
イルミが手元に目線を落とすと、クロロはそれを見て 悟ったように小さく笑みを浮かべた。
「お前の元から逃げた理由は何と無くわかった。記憶が戻ってつい色々問い詰めた結果 ついにリネルがキレた、そんな所か」
「まあね」
「リネルは普段むやみに念を使わない。相当怒らせたな」
「怒りたいのオレの方なんだけど。あまりにも言うこと聞かないから少し矯正しようとしただけなのに」
当たり前のように述べるイルミに、クロロは冷たい目を見せた。
「それがお前の家のやり方なのかは知らんがルールのない世界で生まれ育ったあいつにとってそれがどういう意味だかわかるか」
「わかるわけないだろ。知らないんだし」
「足枷同然、オレならお前を殺してる」
「リネルにオレは殺せない、実力的にも立場的にも」
「なら、そんな家畜のような扱いされるなら自ら死んだ方がマシかもな」
「あ、そんなようなことも言ってたっけ。すごいなクロロ、リネルのことよくわかるね」
「お前よりは価値観が近いだけだ」
称賛を込めさらりと言うイルミに、クロロは声を少し低くして言葉を返した。
「リネルが大事なら2度とそんな真似しない事だな」
「死急がれても困るしさ」
「そこまで馬鹿じゃないだろう、さっきも言った通りオレはお前よりはリネルの事はよくわかる」
「だからなに?」
「オレだってリネルの事は大事だ。あまりいじめるなら返してもらうぞ」
イルミは目元を細めると、クロロに睨むような目を向けた。
「返すも何もリネルは今はオレの嫁なんだけど」
「それ以前に昔からあいつはオレらの仲間だ、お前がリネルの意思に反して 無理に何かを強要すると言うなら理由は十分だと思うが」
「返す気ないけどね」
「なら力づくで奪うまでだな」
2人の間に重苦しい空気が流れ、その場に静寂が訪れた。