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〈H×H 長編〉暗殺一家の嫁

第5章 後押し


それから数日が過ぎただろうか。
仕事を終えたリネルは普段のように自身のマンションへと帰宅した。簡単な食事と入浴を済ませ、ふうと息をつく。
そしてこれからの自分の事を考えた。

「…………。」

勢いで結婚を決めてしまってみたものの、あまりにも漠然とし過ぎていてそもそもこれで良かったのかが疑問で仕方なかった。まして相手は交際相手ですらなく、互いの利害が一致しただけの詳しくは知らない相手だ。知っているのは名前と顔と職業と、そんなところしかない。
正直、リネルは一人でも十分に生きていけるのだ。そこそこ強さもあるハンターであるし、この仕事をしている限りお金には困ることはないだろう。
結婚なんて自由を拘束されるだけの制度に縛られることに、何の意味があるのだろうか。
何より腹が立つのは、それを言い出した張本人のイルミはあれ以来連絡のひとつもよこさないままではないか。
冷めた気持ちと元にふつふつとした苛立ちすら湧いてくる思いだ。

リネルは携帯電話を取り出した。文句の一つでもいってやろうかとアドレス帳から「イルミ=ゾルディック」の名をスクロールで探した。

「あ、」

そんな折、昔懐かしい知人の名前を見つけてふと小さな声を漏らした。
クロロ=ルシルフル
名前を見ているだけで、御礼の一言では片づけられない程世話になった過去を思い出してしまった。
同郷出身であるクロロは昔から何かとリネルの世話をやいてくれたものだ。戦闘から仕事のアドバイス 美味しい珈琲の入れ方まで、色々な事を教えてくれていた。
リネルは素早く指先を滑らせた。イルミのことなどてんで頭から消え去り、クロロに向けて一本のメールを打った。

『クロロ元気かな、前に借りた本返したいんだけど時間もらえませんか?』

すぐに返信が来るかは五分五分といったところか。
今時点で何をしているかはわからないが、質問を含むメールに対してはクロロのレスは比較的早いのが常だ。
もちろん「本を借りていた」なんてのは素直に「会いたい」とは言えないリネルの下手な口実だった。
過去にあげると言われてもらった本はいくつかあるのは本当の所だが、クロロならきっとリネルの言いたい意図をうまく汲んでくれるはずだ。

返信は想像以上に早かった。


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