第46章 家出
ヒソカが指定した高層マンションはそこから遠くない。一等地とも言える場所にこんな仮宿を持っているヒソカの生態は謎としか言いようがないが、そこに気遣う余裕もなくリネルは思い切りインターホンを押す。
「いらっしゃい」
扉の上の方から顔を出すヒソカに リネルは目元を細くし睨みをきかせる。
「メールに書いたけど今日はよろしく」
「ン。でもココへ来る理由は書いてなかったよ」
「わかってるクセに」
「折角記憶が戻ったのにいきなりボクの所に来るってコトは、イルミと痴話喧嘩でもしちゃったかな?」
「…………」
暗黙の了解で無言は肯定だ。全てが計画通り と言わんばかりのヒソカの余裕の表情に眉間が軋みそうだった。
「あ~あ 台無しだ」
「は?何が?」
「折角のデートなのに、昨日の傷 結構残ってるなと思って」
「微塵もデートじゃないし。そして傷は誰のせいよ」
「キミのオーラの質が荒いせい、だろ。」
「っ、」
「治してあげようか、ボクが……」
ヒソカの指先が頬を撫でる距離に一気に近づいた。暖かくとろみを感じるオーラを肌で感じると不覚にも一瞬魅了されてしまう。
触れる刹那に、キルアが鋭い声を出した。
「リネルに触んじゃねェよ!」
「……ボディーガード付きで来るとは想定外だったけど」
扉を完全に開ききれば、ゴンとキルアも顔を出す。キルアを無視したままヒソカは腰を落とし、ゴンに愛想良く話しかけている。リネルはそれを見下ろしながら言った。
「1人で来る程バカじゃない。3対1ならいざとなっても逃げる事は出来るしやり合ったら無事じゃすまないのは多分ヒソカのほう」
「なるほど。正攻法だ」
キョロキョロ辺りを見回すゴンに、ヒソカはますます上機嫌だ。
「スゴイ高そうな所に住んでるんだね。ヒソカって」
「まァね。……ナカも見てみたい?」
室内への目配せをするヒソカの横をリネルはするりと通り過ぎた。思い切り新築の香りがする。
「お邪魔します」
「あっ オレも中見たい!」
平然と部屋の中へ足を進める2人を見ながら、キルアは声を大にする。
「お前らな!ちょっとは警戒しろよ!ヒソカの家だぞ?!」
「文句があるならキミは帰ったら?」
「クソ文句あっても帰るワケねぇだろ」
「なら良かった」