第4章 報告
2人にとっては契約事項のような結婚が締結し、数日後。
リネルは仕事の合間に休憩を挟むべく、協会の近くの喫茶店に入った。ここはフレッシュなフルーツをふんだんに使用したタルトが自慢のお店だ。程よく埋まっている席の中にひとつのよく知る後ろ姿を見つけた。小柄な体躯と高い位置で結われたツインテールは間違いなくビスケだ。リネルは後ろから声をかけた。
「ビスケ!」
「あらリネル 久々。今期のハンター試験お疲れさま」
「うん。ビスケもお疲れ様。また貫禄出てたね~、受験生びびってたよ!」
「ほほっ 何のこと?」
空いているビスケの向かいの席に腰掛けてみる。目の前のビスケは愛らしい容姿に似合う苺のタルトを豪快につついていた。急ぎコーヒーと洋ナシのタルトを購入し、ビスケと世間話を楽しんだ。
「…で。例の男はどうなったの?」
「……例のって?」
「とぼけんじゃないわさ」
ビスケ相手に誤魔化しが効くとは思えない。リネルはしらりとした声で答えた。
「ああ、アレねー 何故か結婚する事になったの」
ビスケは驚く様子もない。それどころかしたり顔で、にやにや笑みを深めている。
「それはまた急展開だわね!やっぱりなんだかんだでアタシのいう事あってたじゃない」
「や、それはちょっと違うカモ…私の事は別に好きじゃないのわかってるし お互いに利害が一致したっていうか。これが結婚理由かな?」
「何よそれ。色気ないわね」
「だってホントのことだし」
「冷めた言い方するわね」
「事実だもん」
リネルは頬杖をつき、溜息をついた。
結婚を決めたはいいものの 現状は何の変化もなくもつらつら毎日が過ぎて行く。あの日以来イルミからは何の音沙汰もなく、あの夜の出来事は夢だったのかとさえ思えてくる。