第45章 客
ハンター協会の上階にて、真剣な顔つきでノートパソコンを叩くリネルを見てパリストンが驚きの声を上げた。
「リネルさん! どうされました?」
「傷ですか?苛つくオーラですか?それとも着替える暇もなかった服の襟裳の血痕ですか!?」
「それらもですが何よりも表情、でしょうか。普段の女性らしさが半減していますよ」
「……普段えらい細かい所まで見ていらっしゃるんですねー」
「あ、それセクハラとか言うんですか?普段の魅力を褒めたつもりだったのに……女性とのコミュニケーションが難しい時代になったものですね」
「今日は所用につき早めに帰りたいので、仕事あるなら早く回して下さい」
自身の要件のみを低めた声できっぱり言い切るリネルに、パリストンは細く微笑み溜息混じりに言った。
「はいはい。こちらのデータメディア、先日壊滅した独立国家から発掘されたんですが念がかけられていて中身が見れないんです。種類や強さや解析方法をある程度探ってもらえません?」
「やってみます」
片手で束になっているメディアを受取ると、目の前に一本の栄養ドリンクのようなものを差し出された。
「……何ですか?」
「何より今日はかなりイライラされているようなので。カルシウムとった方がいいですよ?苛立ちはお肌の天敵ですから」
「……カルシウムって、これマムシって書いてあるんですけど!?」
「あれ、おかしいな。あ、リネルさんのはこっちでした。こちらは僕のね」
パリストンはひょいとドリンク瓶を入れ替える。真昼間っからマムシドリンクとはからかっているのか、おとぼけたフリで元気づけてくれているのか。リネルの八つ当たり同然の態度を物ともせずに接してくれるのは大人の余裕のなせる技か。
半ば申し訳ない思いを感じ、リネルは大きく息を吐きドリンクの蓋を開けた。
「ありがとうございます……さっそく頂きます。」
「くれぐれも仕事に響かないようにして下さいよ。くれぐれもね!」
「……はい、わかってます」
仕事への遅れは後のスケジュールに大きな影響をもたらす。パリストンの本来の目的はそこかと心で呟いた。この人はミスに対しては最もこちらが堪える態度で接してくる人だ、それは良く知っている。
酸味が強いドリンクを一気に飲み干し、伸びをしてから早速仕事にとりかかった。