第44章 喧嘩
「隠し事をするし言う事を聞かない。そんなリネルの何をどう信用しろって言うの?」
「少しもわかろうとしないから…信用出来ないんだよ…人の気も知らないで…。私が…私が今朝、どんな気持ちでいたと思ってるの」
「もういいよ」
「ッ」
突如頭がぐらぐらする程のオーラを目の前に突き付けられた。刹那呼吸が止まる。触れてすらいないのに熱くて皮膚が爛れそうだ。
額に向かうのは、細い先鋭物だ。
「…イルミ…私を…殺すの…?…」
「前に一度忠告した。それが聞けないなら仕方ないよね」
「…殺すんだ…」
イルミは少し首を傾げる、瞬きすら忘れ固まるリネルにけろりと軽い口調で言った。
「殺さないよ。間違った選択をしないように、危険な事に手を出さないようにね」
「だって…私の思考を、支配するって事は…、今までの私を殺すって事だよ…」
「リネルの思考は変わらないよ。大事な事は直接教えてあげるだけ」
小さく華奢な針の中心から漏れるのは、鳥肌が立つ程強く強靭に練り込まれたオーラだ。こんな物を体内に受け入れるなんて、本能が拒否をする。逃げたいが、この場から離れたいが、その隙を見つけられなかった。焦点をずらせない瞳が焦げそうで乾いてくる。喉がちりちり熱くなる。
「私……、私は……イルミに支配して欲しいんじゃない。私の事をもっと……理解して欲しいんだよ!!」
リネルはオーラを増強させた。致命傷を与えるつもりでの一撃だった。それくらいでなければ、イルミから離れる隙を作れなかった。
手先の念を鋭く変化させ、イルミの手首を落とすつもりでの攻撃を仕掛けた。その場に舞うのは血の臭いだ。
一瞬の間のうちに、部屋の隅の方へ素早く身を移動させた。
確かな手応えはあった、イルミの傷は深い。しかしイルミは手首からばたばた床に落ちる鮮血を見もせずにこちらを見据えるだけだった。
「オレと闘り合おうっていうの?」
「…闘るよ…このまま言いなりになるよりは闘って死んだ方がマシだよ…!」
「わからないの?」
「……っ!!」