第44章 喧嘩
ポツリと呟いたあとにふと思い立ち、携帯電話を探す。何故かそれが見当たらずリネルの焦りは深くなる。
「どこにいるの……また仕事なだけだよね?……、……っ」
大人しく部屋にとどまる気にもなれず、再び自室のドアを開けようとした時に 感じる気配に即顔を上げた。次の瞬間、開けられた扉からは普段通りのイルミが顔を出した。
「どこに行くつもり?」
「イルミ……ッ!!!?……いた……」
らしくなく、縋りつくまでに近づき見上げてくるリネルの様子からイルミは目を大きくする。するりと腰を屈めると、リネルの顔を思い切り見つめ返した。
「戻ったの?記憶」
「え?!」
「元の生意気そうな目付きに戻ってる」
イルミはあっさり離れようとするがリネルはイルミの腕を掴む、そして無理矢理に視線を合わせた。
「ねえ昨日パーティーはどうなったの?私達ここにいるって事は仕事は無事に終わったんだよね?」
「うん、仕事は無事終了。リネルは記憶をなくしてたけど」
「……え……」
「覚えてる?昨日の事」
「途中までしか……わからないの……」
記憶が曖昧な理由がハッキリし、リネルは深く息をついた。
記憶をなくすだなんて。その間起きた事もわからずにただただ混乱した。頭の中を整理すべくイルミから数歩距離を取る。目線を下にそらせていると、横から冷たい声が落ちた。
「色々聞きたいんだけどさ」
「…………」
「まず昨日、あの場に幻影旅団がいたの知ってたね?」
「………っ、」
「何で言わなかった?」
口を噤み目線をイルミに戻す、イルミは訝しくこちらの言動に注意を向けているしここで嘘を言うのは逆効果だろう。リネルは小声で言った。
「それは…………。とりあえず私が記憶なくしてから何があったのかを教えてよ……」
「じゃあ説明料。そうだな、1億でいいよ」
「はァ?!」
さすがにそれは解せなかった。リネルは瞳に睨みをきかせイルミを見上げた。