第44章 喧嘩
翌朝、リネルはごくわずかに響く規則的な機械音を耳にして目を覚ました。随分と長く眠ったような不思議な感覚を受け呆けた顔で天井を見上げていたが、どこかで嗅いだことのある芳香剤のような香りを思い出し身体を起こした。
「ミルキの部屋……?私、なんでここに……」
何度か瞬きを繰り返しながら辺りを見渡す、自分が寝ていたL字型ソファの短い方ではキルアが猫並みに身体を丸めて寝ており 奥のベッドでは仰向けに寝転んだミルキが大きなお腹を上下させていた。
「……パーティー、………」
一気に、昨日の仕事の事を思い出しリネルは記憶を辿った。
イルミの仕事に同行しパーティーに潜入後、幻影旅団とヒソカに出くわし 何故かヒソカに襲われた。その後の記憶が一切なかった。
リネルは次の瞬間 寝ているキルアに馬乗りになり、キルアの胸元を掴み強引に揺さぶり起こした。
「キルア!キルア起きてっ」
「……リネル?……んだよっ近えよ!」
「イルミは?」
夜通し遊んだ後だというのに、瞳を真ん丸にかっぴらいたリネルの顔が近い。キルアはリネルを避けるよう、片腕を顔に当てていた。
「イルミは?イルミはどこ?」
「知らねえよ。……つーか、記憶戻ったの?」
「…………」
「おい、どこ行くんだよリネルっ?!」
リネルはソファから跳ね起きると、ミルキの部屋から走り出した。
自室への道を急ぎながら、リネルは焦りの表情を浮かべていた。残る記憶を必死に追いかけた。
クロロとダンスフロアにいた際、イルミに「加勢を頼む」と呼ばれた。イルミの元へ向かう途中 何故か居合わせたヒソカに邪魔をされ、戦闘を余儀なくされた。その後の覚えは一切なくイルミに会った記憶もない。
あのイルミに限り仕事を失敗、ましてや安否不明の事態はさすがにあり得ないとは理解しつつも、記憶が曖昧で断言が出来ない。リネルは下唇を噛み締めた。
「……イルミのくせに……私に心配させるってどういうつもり……っ」
リネルはますます足を早めて部屋へと急いだ。
部屋の前まで来てみるものの人の気配はなかった。誰もいないとはわかりつつ、リネルは自室の壁面扉からイルミの部屋を覗いた。
「……いないし」