第42章 電話
「…うっ、……っ…ッ」
ふとイルミの力が弱まった事に気付き、薄く濡れた目を開けた。イルミは無表情のままこちらをしげしげと見下ろしていた。
「まぁいいや。その辺は記憶が戻ったら今日の迷惑料と合わせて清算させるし」
「…っ…」
瞳をじっと覗かれる。リネルは再び緊張の表情を見せた。
「別に泣かすつもりじゃなかったんだけど」
「……」
「そういえばリネルの泣いている所は初めて見た」
「……それは、……いきなりこんな事されたら、怖いし……」
「あ、ヤってる時はたまに泣いてるか」
「…………、…………」
その後イルミはあっさり身体を起こしソファから立ち上がった。
リネルもすぐに起き上がり、思い切り軽蔑した面持ちで イルミを見据えた。
「いいよ、警戒しなくて。オレはまた出かけるから」
「……、どこ行くんですか?こんな時間に……」
「仕事」
正直ホッとする。しかし先程も仕事で深夜は深夜でまた仕事、その多忙さには疑問も残る。
「さっきも仕事だったんですよね……?忙しすぎじゃないですか?」
「そう思うなら余計な手間掛けさせないでよ。今のリネルに言っても無駄だけど」
「……すみません……」
「それにリネルだってかなりの仕事人間だと思うケドね」
去り際は実にあっさりだ、イルミは部屋の入り口まで足を進める。ドアノブに手を掛け、静かに部屋を去ってしまった。
「…………っ…………はああぁ」
リネルはようやく、安堵するように大きく息を吐いた。 未だ収まらない心臓の不安の音を落ち着かせるように、膝に顔を埋めた。