第42章 電話
「イルミさん、…な、なんで…」
「あんな大声で話しててオレが気付かないとでも思った?」
「え、ええと……」
上から顔を落とされる。思い切り影を作られると、イルミの長い髪が一筋肩にかかってくる。
本能的に警戒を覚えリネルはその場から逃れようと脚に一気に力をこめる。瞬発的に離れようとするがそれは叶わず、次の瞬間には あっという間に押さえつけられソファに押し倒されていた。
「やっ…、…」
視界は一色でイルミの顔だ。思い切り怯えた顔をするリネルに イルミはゆっくり顔を寄せる。うなじから、頭部を逆に流れるイルミの髪が周りに壁を作るようで身動きが取れなくなる。イルミは表情の変えぬまま口にした。
「そんなに好きなの?クロロ」
「えっ、と…」
「まぁ見てればわかるけど」
「それ、は…ッ…」
その指摘は否定は出来ない。した所でイルミが聞き入れてくれるかもわからないし、何よりも、自分の気持ちに正直でありたいし嘘をつきたくなかった。目元にだけは反論を示し、リネルは震える声で言う。
「今は、そうだとしても……、私は……イルミさんの事が好きになったから 結婚したんですよね……?それじゃあ……ダメなんですか?」
「さっきの話聞いてなかったの?そういう事情じゃないって言ったよね」
「……ッ、絶対、そうです……!」
「記憶ないんでしょ。何もわからないくせに」
急に身体を寄せられた。手元は当たり前に胸に伸びているし、突如激しい嫌悪感を覚えた。身体を固く緊張させる。
「やだ、やめてっ……!」
「もう子供じゃないんだよね」
「離して……!!」
「あんまり力むと傷口開くよ」
こんな展開を受け入れるのはあまりにも辛いものがある。リネルはキツく目を閉じ、必死に言葉を紡いだ。
「わかります!自分の事だからわかるんです!!……今は、……」
「まだ言うの?しつこいね」
「……だって、じゃなきゃ私、……私は……」
「身体は何か覚えているか、試してみようか」
「私は……私は絶対に、自分からクロロから離れたり、……クロロから離れるなんて、そんなこと…………絶対にしません…………ッ…………」
自分でそう言うと、自分でも今の事実を認めてしまうようで。違う未来を受け入れる事を余儀なくされる。リネルの瞳は涙で溢れていた。