第42章 電話
「イルミはどうした」
「知らない。ここにはいないよ」
「それはわかる。お前の記憶についてはこちらでもいい手がないか調べている、とりあえず今日の所は大人しくしておけ」
「どういう事?」
可能な限り大人しくしているつもりだというのに。リネルは携帯電話を耳に当てなおした。
「ただでさえお前はアイツにオレとの関係を隠していたようだしな。つまり、あまり不協和音を作っていると後が大変だろって事だ」
「そんなの知らないよ。私は……、……私はやっぱりクロロがいい!」
きっぱり言い切るリネルに、クロロは声を低くして言う。
「リネル、我儘言うな」
「これって我儘なの?!私は自分の気持ちを言っただけで、」
「状況を考えろと言っているんだ。今のお前は”本来のお前”じゃない」
「わかってる、けど……全然わかんないよ……」
クロロはいつもそうだ。全体を鳥瞰しその場その時に最も最良の方法を、無慈悲にも冷静にくれてくれる。クロロの言う通りにしておくのが得策とわかっていても、大人しく引き下がる気にはなれなかった。
「…………わ、…………ッ!!!?」
「どうした?」
握っていたはずの携帯電話が後ろから抜き取られていた。気配は全く読めなかった、近づかれていることにすら一切気付かなかった。
「イ…………イルミ、さん」
素早く振り返るとソファの背越しにはイルミの姿だ。こちらを真っ直ぐ見下ろしながらイルミはリネルの携帯電話をゆっくり耳に運んでゆく。向けられる黒い瞳にきつく動きを封じられるようで、携帯電話を取り返す事すら忘れていた。
「そんなにさ」
「……イルミか?」
「そんなにクロロがいいの?」
「なに、それを真に受け
クロロの声が遮断されてしまった。
ビシリと、携帯電話の画面左右に亀裂が走る。本体部分も潰されたリネルの携帯電話は、ぽんとソファに放られた。
そこまで、イルミの気に障ることをしたのか、たかが電話を掛けること一つで何故携帯電話を破壊される展開になってしまうのか。リネルはしどろもどろになりながら焦った顔を深める事しか出来なかった。