第42章 電話
はっきり言って認めたくななかったが。これらの品々を見ているとそう思えてくる。
イルミは「利害の件で結婚した」なんて言ってはいたが 今の自分は本当はイルミに確たる愛があり、これらを証拠の品として縋ってでもいるのだろうか。重い本をテーブルに戻しリネルは顔を上げる、壁の一部にある壁面扉に目を向けた。
「……悪い人じゃないのかもしれないけど……」
今わかることはそれだけだ。リネルはぽつんとそう言った。
先ほど使用人から傷がひどいので入浴は控えろとの指示をもらっている、とりあえずクローセットから部屋着になりそうなセットアップを選んでみた。
◆
着替えを終え、リネルはしんと静かな部屋でソファに座り1人膝を抱えていた。どうすれば記憶が戻るのかもいつ戻るのかもわからずに、この知らない環境で過ごさなければならないことはとにかく気持ちが重かった。不安や焦り、考えても仕方のない負の感情が渦巻いてしまう。
「はぁ…」
思い切り大きな溜息をついた後に、ふと良い考えが浮かぶ。リネルはぱっと顔を上げ声を明るくした。
「クロロに電話してみようかな!」
すぐに携帯電話を手に取った。興味本位でメールや着信履歴を覗いてみればやり取りのほぼ全てが上司であるパリストンであった事には苦笑いしかなかったが。アドレス一覧を開いてみればきちんとクロロの登録がある。すぐにクロロへの電話をかけた。数回のコール音の後、取られた電話口からは良く知る低音の声が聴こえてくる。
「どうした。記憶戻ったのか?」
「…………ううん」
今いる自室が無音のためか、 電話の先の賑やかな音が気になった。本日、幻影旅団は仕事だったとの事でその打ち上げでも催しているのだろうか。正直寂しさが募る、リネルは弱々しい声を出した。
「これからどうしたらいいかわからない。クロロの所に行きたい……」
「心細いお前の気持ちはわからないでもないがな」
別室にでも移ってくれたようで、よりはっきりとクロロの声が聞こえてくる。
この声のトーンもさり気無い気遣いも、本当に大好きなのに。
なのに未来は思い描く形とは全く別だと突き付けられ、思い切り悲しくなってくる。無意識にぎゅうと目頭が寄る。まるで同調するかのように、クロロの溜息がきこえる。