第41章 帰宅
そんなこと、今のリネルには知ったことではない。記憶もなくし四面楚歌状態で唯一の頼りがクロロだと言うのに、これではあまりにも冷たい対応と感じてしまう。クロロは微塵も こちらを心配し気にかけていない、そんな風に感じられてならなかった。
「…クロロは私のこと、もうどうでもいいんだね」
「飛躍しすぎだ、何故そうなる」
「…だって」
「もう行け」
「…え」
「キリがないだろう」
「…………」
クロロはあからさまに扉の方へ目配せをする。リネルは名残惜しそうにその場を離れるしかなかった。
◆
外は既にとっぷり夜に落ちている。肩の開くドレスでは肌寒いくらいだった。屋敷から少し離れた所には一台の黒塗り車が停められていた。そこへ近づくと後部座席の窓が少しだけ開いた。
「遅かったね」
「す、すみません」
「乗って」
「は、はい」
動き出した車中で リネルは隣に座るイルミの横顔をチラチラ伺っていた。
迎えと言うからタクシーでも呼ぶのかと思いきや、これは雰囲気が明らかに違う。車中の飾り気はないものの、エンジン音やシートの感触、広さからして かなりの高級車に分類出来る車種と想定できた。クロロやヒソカと話していた時の、イルミの少しもぶれない態度からして 世間知らずのいいお坊ちゃまなのだろうかと、確信を得ない想像ばかりが深くなる。
「…………」
イルミの 何か話すでもなく、窓枠に頬杖をつきじっと前に視線を据えるその姿は クロロに比べるとかなり話しかけづらい雰囲気を持っているように見える。何故この人と結婚に至ったのかが疑問で仕方なかった。イルミは表情を崩すこともなくリネルに問いかけた。
「何か聞きたい事でもあるの?」
「…え…」
「そんなに見られてると居心地悪いんだけど」
「ごめん、なさい」
悪気があるのかないのか 物言いがえらくストレートだ。遠慮なしに、とはいかないがリネルは聞きづらそうに口にした。