第40章 試行錯誤
イルミに対してぺこぺこ謝りまくるリネルを庇うよう、クロロが声を鋭くする。
「生憎そういう環境なんでな。これ以上話の腰を折るな」
「どっちが?お前らの出生地の話をしているワケじゃないだろ。で、ヒソカは?なんか出来ないの?」
「ボクの能力は完全に分野外だ」
「…………やれやれ、八方塞がりだな」
クロロはソファに深く身体を預ける、指先でこめかみを抑えていた。
イルミは部屋の柱時計へ目を走らせる。
そして音もなく立ち上がった。
「まぁいいや。とりあえず帰るよリネル」
「え……?!帰るって…え、どちらに?」
「家に決まってるだろ。仕事も終わったし記憶が戻る可能性ないならここに留まる意味もないしね」
この状況下でクロロと離れるのは心細い以外の何ものでもない。まして、結婚相手と帰る先と言えば二人きりの愛の巣だろう、とても場が保てるとは思えないしイルミをあしらえる気もしない。
口をぱくぱくさせ焦った顔をするリネルに、ヒソカが声をかける。
「まだ帰りたくなさそうだねぇリネル」
「えっ、いえ、…そういう訳じゃ…」
「既に帰宅予定を2時間も過ぎてる、リネル急いで」
「え?!やっぱりまだちょっと…帰りたくないかも…なんて、」
「ホラ、別に無理に連れて帰らなくていいだろ」
「じゃあどうしろって言うの?」
つくづく思う、もうこの展開はこりごりだ。
リネルがどんな返答を返した所でこの場を丸く収める自信はなかった。指先に触れていたクロロのスーツジャケットの裾を、無意識にきゅっと掴んでいた。それに気づいたクロロがやや口角を上げる。
「お前はどうしたいんだリネル しばらくはオレの所に来るか?」
「それはイルミが納得しないだろ。ボクの所にする?リネル」
「お前らのふざけた会話に付き合うつもりはないよ。帰るよリネル」
「……あはは、……えっ、と……」
誰一人見捨てずに匿ってくれる意思があるなら有り難い事ではあるが。とても素直に「記憶が戻るまではクロロの所に」と言える勇気がない。リネルは一人、引きつった笑いを浮かべるだけだった。