第39章 喪失
「やぁイルミ。久しぶり」
ヒソカは朗らかに語らいかけるが、今しがた入ってきた男は表情も殆どなくオーラもありありと攻撃的だった。大股で歩くたびに括られた後ろ髪が流れている。
「ヒソカ、前にお前に言ったよね。リネルに構うなって」
「ここで彼女に会ったのはただの偶然さ。代わりにイルミが遊んでくれるなら大人しくリネルを返すよ」
「死にたいの?」
「キミがそうしてくれるなら、ね」
近くにいるだけでとにかく威圧的で気味が悪くなってくる。嫌なオーラの持ち主はずかずかこちらに近づいてくるし、今にもヒソカに一撃をくれそうな勢いだ。記憶になくとも、ヒソカは恋人だ。見かねたリネルが横から怯えた声を出す。
「あ、あの…揉めごとは、その…っ」
横やりを入れたのは失敗だった、まさか、矛先がこちらに向く。
黒髪の男は奇妙なほど素早く首を回すと、見開かれた黒い瞳を真っ直ぐぶつけてくる。リネルはビクリと肩を揺らした。
「どういうつもり?」
「え…?」
「オレの指示を無視した上で、ここでヒソカとドンパチしてたって言うの?」
「え?…え、…え?」
この剣幕では反論も出なくなる、これではまるで誘導尋問だ。リネルはそそくさヒソカの後ろに身を寄せる、怯えた表情でヒソカを見上げた。
「この人…ヒソカさんの友達?」
「ウン。そう、オトモダチ」
「この人なんでいきなり来てこんなに怒ってるの…?」
「さぁねえ。仲間外れにされて拗ねているのカナ」
「だって私達って…その、えっと…つ、付き合ってるんだよね?なら別に2人きりでいたって…おかしくないよね?この人に怒られるようなコト何かしちゃったの?」
「ヤキモチってヤツかな。リネルに気があるのカモ……この人♡」
動きをほとんど追えなかった、きっと第二のこの男も相当の実力者なのだろう。次の瞬間には 舐め切った目をするヒソカの顔面に、謎の針状の武器を突き立てる勢いで構えがなされている。
無駄の無い動作とは裏腹に まるで子供歴然に、不機嫌を隠そうともしていなかった。
「説明する時間くらいはあげる。あ、やっぱりいいや 殺った後に喋らせればいいし」
「え?!ちょっと…や、やめて下さい…っ!」
「リネル、お前だって後でどうなるかわかってるよね」
「えっと、…」