第38章 襲撃
隙はほんの、一瞬だった。
リネルは手すりに両手を付くと、床面とヒソカの胸元を蹴り上げ バルコニーの柵を超える。重力に従い身体は下へ一直線、この高さではさすがに無傷と言うわけにはいかない。
しかしこのままここに留まっても、勝算は皆無と言える。
もう、賭けに出るしかない。
「しつこいね。逃がさないよ」
上からはこちらを目掛けて、正確にトランプが飛んでくる。
「……どっちがしつこいの……っ」
空中では うまく身体を動かす事も出来ずない。捨て身覚悟で、致命傷になりうる枚数のみを必死にかわすことに専念する。
次の瞬間、リネルは叩きつけられるように地面に落下した。
◆
「…………」
「お目覚めかい?」
視界がえらくぼやけていた。
目の前には、二本の両腕 それは巧みにトランプカードを操りリネルの顔の前ではらはらと綺麗に遊ばせている。
「…………」
「軽い脳震盪みたいでちょっと気失ってたけど。しかし随分回復早いね、驚いたよ」
重い頭を動かし周りを見渡せば、ここはどこかの広い部屋みたいだった。応接室のような雰囲気で ソファやテーブルが置かれている。人間は自分と、後ろで話す男性だけのようだ。至極静かな空間であった。
何故か身体に痛みがひどい、リネルは思い切り眉根を寄せた。よくよく見れば半分寝かされ 脇から後ろの男性に両手を差し込まれている格好である事に気付く。リネルは何とか後ろを振り返った。
「さっきは大胆な選択だったね。惚れ直しちゃうよ」
「…………」
「今日は一時休戦にしよう」
「…………」
「キミのダーリンには連絡を入れておいたから。イルミが来るまではボク達二人きりだ」
「…………」
思い切りとぼけた顔で、リネルは一言つぶやいた。
「あなた、誰?」