第38章 襲撃
ヒソカはすぐに間合いを埋めてくる。さっと身体を浮かせ ヒソカの背後に回り込み、ヒソカの背中に脚での攻撃を仕掛ける。
ヒソカはリネルの攻撃には全く動じず すぐに振り返ると、リネルの足首を片手で掴み もう片手ではリネルの足をめがけてトランプを振り下ろそうとする。
足一本を切り落とされそうな状況に、リネルはオーラを足に集中させ補強を行った。
ひとまずは リネルの防御が勝ったようで脚には重く響くような攻撃の衝撃のみが残った。
手先の念を鋭く変化させ 足を抑えるヒソカの手を切りつけ 足が解放される。再びヒソカから距離をとり リネルは歯を食いしばりヒソカを見据えた。
「スピードは合格。でも攻撃が軽すぎる」
「はぁ、っ、はぁっ」
「もう少し愉しんでいたいケド……もう本気で、ヤりたくなっちゃうな……」
「ちょっ、と……冗談でしょ……」
ちりちり漏れ出す殺気が、残り時間を削ってゆくようだ。
背筋に冷や汗が流れる。
焦るリネルは背中の方に目を向ける。
吹き抜けのようになってているその場所には屋外バルコニーがあり、外への出口はちょうどリネルの背の位置だ。ここは逃げるしかない。
建物の上階ではあるが バルコニーから外へ出れば逃げ道の一つくらいはあるだろう、リネルはガラス戸を蹴破り一気に外へ出た。
「!」
手すりまで走りそこを飛び越えようとした時、首の後ろを強く引っ張られる。首からは筋がつられる音がする。
「逃がさないよ」
ヒソカのバンジーガムに引っ張られた次の瞬間には、首の後ろを大きな手で掴まれ 手すりから落とされそうに 頭部を抑え込まれていた。
「っ……ッ…」
高層階であるが故、夜風が強く冷たかった。
乱れた髪がさみだれて視界を邪魔してくる。
リネルの目の前には、ライトから照らし出されるクリスフォード邸の裏庭の景色が広がっている。遠くの方にはごく僅かに市街地の様子も見える。庭だけでいったいどれだけ広大な土地を所有しているのか、この中で人間一人が落下死した所で誰も気付かないのではないかと思った。