第38章 襲撃
ヒソカから、まるで冷や汗が噴き出るくらいに嫌なオーラを感じた。ぞわぞわ身体にまとわりつく感覚が不快で肩が上下し、呼吸が荒くなってしまう。
ぷつんと微かに、首筋に埋められるのは冷たさを纏うトランプの端だった。
「遊ぼうよ。リネル」
ヒソカの腕を掴んでみた所でびくともしなかった。
トランプの端はリネルの肌に明らかな傷を作っている。
首から鎖骨、胸元までをたらたら流れる血に従い、リネルはごくりと息をのむ。一瞬でも隙を見せたら今のヒソカは一捻りでリネルを殺しにきそうだ。
視線だけで、目の前の男の表情を盗み見た。
細く光る瞳にありありと狂気が宿る。
先日会った際 ヒソカの服に飛んでいた生々しい返り血をふと思い出した。
これではヒソカの機嫌次第、下手をすれば数秒で展開が決まってしまう。
リネルは必死に頭を働かせる。今出来ることは、時間稼ぎとヒソカの意識を他に反らせることくらいだ。
「ヒソカの目的は…例の能力者なんでしょ…どうやってここにいるのを調べたのか知らないけど…」
「まァね。情報割るのにはちょっと苦労したけど」
「じゃあ尚更、私に構ってる間に…イルミが殺っちゃうかもよ…そっちに行かなくていいの?」
「ウーン なかなか気配掴めないし用心深いタイプなのかもねェ…そんなコトより」
「……ッ……!!!!!」
容赦なし、なんてものではなかった。
大人しくお喋りに付き合ってはくれないようで、ヒソカは首に触れるトランプを真っ直ぐ上に滑らせてくる。
動脈を傷つけられないよう必死の抵抗として、顔を真上に向けることが精いっぱいだった。大きく呼吸をすると、自ら傷を深めてしまいそうで 浅い息を何度も繰り返した。
「今は、リネルがいい……」
ヒソカは上からゆっくりと顔を落としてくる。目を反らすことも命とりになるこの展開では ヒソカを睨み返すことしか出来なかった。
最初の一撃で付けられた頬の傷から落ちる血を、味わうように下から一舐めしてくる。舌先が傷口に触れるとそこにはじくじく痛みが走る。執拗にそこを抉られると深くなる苦痛に涙がにじみ、皮膚の感覚がおかしくなってくる。
「ッ、傷が残ったら、どうしてくれるの……っ」
「責任はとるさ」
「っ嘘つき!!」
「傷なんて、気にならなくなるように……」