第37章 ダンス
「リネル?」
「うん。……なに?」
「変わったコトはない?」
「うん。……何もないよ」
今の行いをイルミに見られていることはまずあり得ないのだから、一切の動揺を見せてはいけない。一度だけ深く呼吸を取り会話を続けた。
「どうしたの?終わったの?」
「いや。目標の周りがガード堅くてさ 強さってよりも結構人数がいて面倒なんだよね。例の能力者も気配はっきり掴めないんだけど、近くにいるみたいだし」
「そっか、大丈夫なの!?」
「今日こんな格好だしいつもより装備少ないから予定より時間かかりそう。リネルもちょっとだけ手伝ってくれない?その分報酬には乗せるから」
「わ、わかった」
「場所は無線機のコードで特定して」
応戦依頼とは少し予定外ではあったが、今日の目的は何たるかを今正しく思い出した。リネルから漏れる微かな違和感を探るよう、イルミは一言付け足した。
「あとさ……なんかこそこそ嗅ぎ回ってる奴らがいるみたいなんだけど、知らない?」
「う、ううん。特には」
「そう」
今日ここに幻影旅団が居合わせたのは、互いの目的の為のただの偶然だ。
存在を隠す必要があるかは定かではないがついそう答えた後、リネルはイルミとの電話を切った。
そして、クロロの元に駆け寄った。
「私行かなきゃ……クロロ、ここ見張ってて。何かあったら教えてね」
「協業する気はないと言ったはずだが?」
「協業じゃなくてビジネスってことで!何かあった時は教えてくれたら相応のお礼はするから」
そのまま急ぎ足で去ろうとするリネルの背中を、クロロは一言で呼び止めた。
「リネル」
「ん?」
「顔」
「顔……?」
首を傾げるリネルに向かい、クロロは声を低めた。
「化粧を直せ。緩みきった表情もな」
「え……!?」
「怪しまれるぞ、さすがに」
「…………ッ」
誰のおかげでここまで心を乱す羽目になったというのか。肝心な所でやはりクロロは何を考えているのかわからない。リネルは思い切りクロロに背を向ける、そしてその場を離れた。
遠くなってゆく足音を聞きながら クロロは小さく息をついた。