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〈H×H 長編〉暗殺一家の嫁

第3章 決断


その後、二人は廃墟ビルの外へ出た。

空には月が浮かび、深夜の割りには荒れた庭が明るく照らされている。寝不足と急過ぎる求婚の申し出を受け、すでにリネルの頭は正常に働いているとは言えなかった。ぼんやり視界が曇り身体もだるく重い、考えることが面倒になってくる。

「返事は早くしてよね」

「早くってどれくらい?」

「とりあえず明日にまた電話する」

「……早」

「善は急げって言うしね」

まったくこの男は。せっかちすぎる返答に嘲笑が出た。

運命だなんてものを信じる気はないが、不思議と己の直感みたいなものはいつも頭の中にある。イルミに対し素直に告げる事など到底出来ないが心の声は何となく聞こえてはいた。

やろうと思えばいくらでも逃げられる。それでもイルミをはっきり拒絶しないのは この状況を自分自身がどこか楽しんでいるからだろう。

そもそも迷う気持ちがある時点で、乗り込んでみるのも悪かないかもしれない。これはハンターとしての性分なのか、未知なる世界への期待は胸を躍らせるものがある。自然と表情が緩くなる。

「いいよ。電話しなくて」

都合の良いオンナとして利用されているのは明々白々だが、今までもギブアンドテイクのビジネス関係でしかなかった相手だ。イルミの言う通り、それこそ下手に語られる永遠の愛よりよほど信頼に足るし、こちらも存分に“ゾルディック”の名を利用してやればいい。

リネルはきっぱりと返事を告げた。

「決めた。イルミと結婚する」

「あれ、考えるんじゃなかったの?」

「考えたよ。で、決めたの」

承諾の返事を出したにもかかわらずイルミは微塵も浮かれる様子がない。横に並ぶイルミをちらりと盗み見れば確かに視線が噛み合った。

「まあ良かったよ。気掛かりだったのはリネルに他に男がいないかって所だったから」

「え?」

「奪ってまでリネルがいいとは思わないし」

リネルの表情が険しくなる。イルミの発言の意味を理解しじろりと下から睨みをきかせた。


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