第3章 決断
リネルはふいと顔をそらす。
からかわれているとしか思えぬ話題が続き、もはやこの男と真面目に会話をしていること自体が阿呆らしくなってくる。大きな溜息が無意識に落ちた。
話が止まる事を好機に捉えたのか、イルミの雰囲気がほんの少しだけ柔らかくなる。
「じゃあ結婚してくれるってことでいい?」
「え!?ちょっ、待ってよ!言ってないよ」
「ならあとは何が気になるの?」
「何がって……」
まるで決定事項を再確認しているだけの如く、イルミは淡々と話をする。このまま下手な返答でもしようものなら勝手に話を大ごとにされ後に引けない状況になるのでは、そんな未来を想像するだけでぶるりと背筋が寒気立ちそうだ。
一旦は逃げるが勝ち、この場ではそう判断した方が賢明かもそれない。
「えっと、あの、……せめて考える時間くらい頂戴よ」
「え?そうだな、まぁいいけど」
「不服そうだね。もしかしてすぐ「ハイ」って言うと思ってたの?」
「うん」
「…すごい自信だね…」
「別に自信なんてないよ。でも断る理由はナイだろ」
「…あるでしょ山ほど…そもそも私達付き合ってすらいない上に お互いをきちんと異性として認識出来ているのかもよくわからないし」
「何度かシただろ?オレは仕事も絡まないのに男と寝る趣味はないし異性だって認識してるよ」
「そういう事じゃない!もっとこう、メンタル的な、…なんていうか…」
「ああ、気持ちがどうとかそういう事?例えばオレが口先だけでリネルへの愛をべらべら語るよりも、お互いの状況を理解した上で夫婦になる方がよほど信憑性があるしリスクも少ないと思うけど」
「…………」
「思わない?」
これはある種の洗脳なのだろうか、そう思うように誘導されている気がしてならなかった。
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