第37章 ダンス
クロロに連れて来られたのはホールの最奥だった。そこは今の自分達には意味深というか何というか、リネルは口をぽかんとあけていた。
目の前の薄暗い空間ではムードあるスローテンポの曲が流れ、男女が寄り添い顔を寄せ合いチークダンスを楽しんでいるではないか。リネルは隣に立つクロロに怪訝な顔を向ける。
「なにこれ、どういうつもり?」
「一曲どうだ?ここなら話すのに最適だろう」
そのまま足を進めるクロロを後ろから睨み、リネルは足と止めていた。
「私は仕事の話がしたいの。遊んでる場合じゃない」
「遊びなものか。一番奥のこの場所からは会場全体がよく見えるし、ここの暗さも気配を隠すにはもってこいだ。何より内緒話をしていても怪しくないしな」
「…そう、だけど…」
クロロはさも当然という顔だ。変な想像をしてしまった自分が気恥かしくリネルは顔をそらせた。クロロはリネルをたしなめるよう、俄かに口端を上げている。
「まぁ嫌ならいい。今日はお前も仕事だろう?こんな所をイルミに見られるのもマズイしな」
「…いいよ。しばらくは大丈夫だし」
確かにこんな所を思い切り目撃されては、マズイと言うより「面倒」だ。リネルはイルミに、過去の生い立ちの話はほとんどと言っていいほどしていない。つまりイルミは、リネルがクロロや幻影旅団と顔見知りである事を一切知らないのである。
しかしクロロの申し出を受け入れたのには安全と言える理由がる。
仕事が終わるとまずは連絡を入れるのがゾルディック家の常。つまり、イルミから何らかの連絡が入らない以上は彼がこのホールに戻る事はないと言える。
リネルの返事を受け、クロロはリネルの前に片手を差し出した。戸惑いはゼロではないがこうなっては仕方ない、リネルはそこへ自身の手を静かに重ねた。
手を引かれてダンスフロアに足を踏み入れた。
周りは皆、思い切りとろけた雰囲気に溢れているし、声色も落とさざるを得ない。
リネルはちらりとだけ視線を上げる。直視するのは気が引けて、一瞬だけですぐに外へ目を反らせた。