第36章 嫉妬
シズクは顔色一つ変えずに、女子特有の柔らかい手でリネルの左手を握った。そんな2人を見て、クロロは茶化す口調で言った。
「残念だったなリネル。シズクは左利きだ」
「……へ〜 そうなんだ」
そんな情報、聞いてもいなければ シズクの事を良く知ってると言いたげなクロロの反応も不快に映った。
一方のシズクはリネルの意地悪を物ともせずに、大きな瞳をくるりと動かして言う。
「あっ!大きなダイヤ いいなぁ」
「えっ……どうも……」
シズクはリネルの婚約指輪をまじまじと興味深そうに見つめた。ここでようやく、ほんの少しの優越感だ。一応見せびらかすために つけてきた甲斐があったではないか。
シズクはクロロに視線をずらせた。
「団長、私も欲しいな ダイヤの指輪」
「何のおねだりだ それは。」
「今日の仕事成功のご褒美に、ダメ?」
「ふ、欲しいならシズク……自分で盗ったらどうだ?」
クロロは笑みをたずさえ、鋭い視線をリネルへ向ける。シズクも重ねてリネルを見る。
リネルは握られたままになっていた掌を失礼な程に素早く引っ込めた。シズクはどちらかと言えばおっとりしていそうな女のコではあるが それ以前に幻影旅団の一員だ、勝ち目があるかもわからない。
「ダ、ダメに決まってるでしょ!……さすがにこれはダメ!!」
「冗談だ。本気にするな」
「……嘘っ 目が本気だったし!」
「わかってる。いくら私でも団長のお友達のモノは奪ったりしないよ」
「…………………………」
クロロとシズクは顔を見合わせ、2人だけで会話をしているようだった。
リネルは咳払いを挟む。仕切り直しと思いクロロに話しかけようとするが、それより先にシズクが話しかけてきた。
「何か怒ってるの?」
「べ、別にそんな事ないけど……」
「さっきからずっと オーラが乱れてるから」
「……っ!」
シズクの言葉にリネルは眉を上げた。
ついこの瞬間、確かに今日の任務を忘れてしまっていた。自らを反省し 下唇を噛んだ。