第36章 嫉妬
しばらくその場で談笑しながら酒を飲み交わした。
ようやく前方から、クロロの姿が見えた。それに気付き フィンクスが声を出す。
「おっ、もう交代の時間かよ」
「ああ。定刻通りだ」
クロロはすぐにリネルの存在に気付いたようだ。しかし声を掛ける事はなく ちらりとだけこちらを見た後、フィンクス達に呆れた顔を向けていた。
「お前らは何を遊んでいる。見張りも大事な仕事だろう?」
「わかってるけどさ〜 まさかココにリネルがいるとは思わないし。で、どう?例の剥製 どこにあるか何かわかった?」
シャルナークはグラスを下げてクロロと何やら話し込んでしまう。
「…………」
リネルの視線は真っ直ぐクロロの隣だった。そこには当たり前のようにクロロに腕を絡ませる黒髪の女のコがいる。あからさまに、面白くなさそうな顔つきでそれを見つめてしまった。
見張り交代と称し、フィンクス達はクロロと入れ替わりにその場を後にしてしまう。
クロロと眼鏡の女のコは相変わらずの密着度だ。何やらイイ雰囲気の2人の仲に取り残されたのではこの場にいるのが気まずいが、クロロには質問したい点がいくつかある。とっとと欲しい答えをもらい、その場を去ろうかと息を吸う。
先に静寂を破ったのは、クロロの隣の女のコの方だった。
「団長、誰?この人」
「忘れたのか?この前の飲み会の時にいただろう」
「えっ そうだっけ」
「…………」
眼鏡の奥から不思議そうにリネルを見つめる瞳を、リネルは負け時と見返した。
確かに、数ヶ月前の飲み会の席では 直接会話をしたわけではない。だが軽い自己紹介くらいはした記憶が確かにあった。
数時間同じ場で過ごしたと言うのに、存在が薄いと言わんばかりにこうもあっさり忘れ去られているとは面白くない。まして正直な所、我が物顔でクロロに腕を絡ませている様が どうしても気に障ってしまう。見れば愛らしい顔とは裏腹に、スタイルはとびきりのセクシーさではないか。
リネルは愛想笑いを浮かべて言った。
「リネルといいます。クロロのお友達みたいなもんです、はじめまして!」
わざとらしく語尾を強調し、握手を求めるべく思い切り嫌味を込めて 左手を差し出した。
「シズクです。よろしくお願いします」