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〈H×H 長編〉暗殺一家の嫁

第35章 潜入


「お1人でいらっしゃいますか?何かお飲み物でも?」

「あは……」

イルミが去ってからの数十分の間に リネルは既に三人目の男性に声をかけられそれを丁重に断っていた。
何せ今日はリネルにとっての暗殺同行初仕事。なるべく目立たずとのオーダーであるし、現状でもこの場を見張ることくらいはリネルでも出来る訳だ。出来れば一切放っておいて欲しく 1人にしてもらいたいのが本音であった。

「どちらから参られたご令嬢かな?エスコートさせて頂いても?」

「……ご親切に、どうも……」

このような場に女性一人でいるのがそもそも目立つのか、リネルは一旦その場を離れる事にした。

この広いホールを一周して様子を見て回るのも悪くはないかと思い、飲み物のおかわりをボーイから受け取った後 壁際に沿ってゆっくりと会場を歩き出した。

今の所、JLAなる能力者や幻影旅団らしき気配は何も無い。この大きなホールの上階には部屋が無数ありそうであるし、そのどこかがクリスフォード家 家族らの部屋や旅団が目当てとする剥製のありかではないかと推測出来、 戦闘が起こるならば上であろうと予測を立てた。

広いホールを見渡せば、奥の方の証明の落とされたスペースではムーディーな雰囲気でのダンスが催されていたり、その反対側にはクリスフォード氏のコレクションであろう宝石や装飾が施された銃器に楽器等が並べられていた。人だかりの出来ている場所では余興として何やらゲームでも実施されているのか、時折人々の歓声が上がっていた。

賑わう空間を他所に、 リネルは1人 表情を固くしたままフロアの散策を続けた。


「…………!」

急に背後から、気配を得る。
背中を指先でトンと押される感触を感じ リネルはぴたりと歩みを止めた。

リネルの背後に易々回り込める人物となると能力者であることは間違いないだろう。リネルは刹那 周囲との違和感を消すことも忘れ、顔を強張らせたまま ゆっくり振り返った。


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